「サラリーマンと農家は変わらない」農業 の職業選択のハードルを下げる「雇用就農」とは
Case05-大野幸一さん-
「有機農業」という言葉をご存知だろうか、さまざまな農業の形がある中で、自然に優しく身体にも安心、安全な農業として知られる有機農業。手間がかかり、大きく農業をできないため、新規就農時に有機栽培をしたいと相談すると「有機農業はやっていない」と断られることが多かった。そのような時代に彼はなぜ有機栽培を選択し、なぜ豊浦町は彼を受け入れたのか。
鈴木さんが「有機農業」や「オーガニック」に関心を持ったのは、新規就農する前のことだそうだ。もともと環境教育に関わる仕事をしていたため、農業をすると決めてから、有機農業以外は興味があまりなかったそう。そんな中で、現在の奥さんと結婚してから1年間、岩手県で農業の研修をしていたのだが、そこでも有機農業をしている農家さんの元で学ぶことを選んだ。
子どもたちの存在も大きかった。「昔に比べて、最近の子どもはアトピーやアレルギーが多い気がする」大気汚染や化学物質の影響など、さまざまな要因があると言われている中で、鈴木さんは自分の子どもたちや周りの子たちが口に入れるものだから、農薬や化学肥料が入っていない「誰でも安心して食べられる野菜を作りたい」そんな熱い想いで有機農業をやると決めた。
岩手県での研修が終わり、北海道で就農地を探し始めた鈴木さん。そこで待っていたのは厳しい現実だった。
「有機農業はやってない」
さまざまな町に足を運び、有機農業で新規就農をしたいと相談すると、このように門前払いをされることが少なくなかった。しまいには電話をしたら「うちには農地が余っていない」と言われ、話すら聞いてもらえなかった。
「北海道は土地の広さを活用して、集約的に農業をやっていくことが主流。有機農業は人の手もかかるし、確実に作物ができる保証もないので、理解してもらうことが少なかった」と当時を振り返る。広い土地で大きな機械を使い、少ない人手で農業をやることが主流の北海道は有機農業は視野に入れていない町が多かったのかもしれない。
有機農業を視野に入れていないということは、研修先を見つけることも難しい。「もうどこか土地を決めて住んでしまおう、そしたら就農の道が開けるかもしれない」と半ばやけくその考えも出てきた中で、いろいろな土地を探し求めているときに、たまたま豊浦の農業委員の人と出会い、話をすると「だったら豊浦に空き家があるから住んだらいいよ」と紹介してもらい、そこの空き家に住み、豊浦の役場の人に有機農業をしたいと相談をしたら話がどんどん進み研修先も決まり、就農までに至った。
他の地域では門前払いだったのに、なぜ豊浦で農業を始められたのか聞いてみると「担当の人が話を聞いてくれた」と話す鈴木さん。他の地域では有機農業と言った途端に話を聞いてもらえなかったが、豊浦は違った。話を最後まで聞いてくれて、研修先まで紹介してくれた。
「豊浦は多くの環境が共存している」
豊浦には海もあり、山もあり、田んぼもあり、街もある。多くのものが共存する中で農業も同じことが言える。「豊浦の農業は田んぼもあればハウスもある、大きな畑もあるし、家畜を飼っている人もいる、多様な農業の形が存在していると思います」と語る鈴木さん。農法だけでもこのようにたくさんの農法があり、栽培している作物はもっと多い。また新規就農への支援も積極的に取組んでいるので、農家の後継者から新しく入ってくる人までさまざまな農業の形や人がいる。そんな豊浦だからこそ、有機農業をしたいと言う鈴木さんの話を聞き、研修先の紹介から新規就農までのお手伝いができたのだろう。
「来てしまえばなんとかなりますよ、豊浦の人はいい人が多いし」
この言葉は何度も門前払いを受けて、もうダメかと思ったときに、豊浦の人が広い心で受け入れてくれた実体験をもつ鈴木さんだからこそ言える言葉だと思う。それと同時に、鈴木さんを通して、さまざまな形で共存し、寄り添い合う豊浦の魅力が伝わった。